書名:飯田市 鬼釜遺跡 風張遺跡 神之峯城跡
副書名:一般国道474号飯喬道路埋蔵文化財発掘調査報告書6
シリーズ番号:長野県埋蔵文化財センター102
刊行:2016年3月
風張遺跡は、知久(ちく)氏の本城である神之峯(かんのみね)城跡と細田川を隔てた北側台地上の遺跡で、掘立柱建物跡で構成された集落がみつかりました。これらの建物跡は、東から西に向かって緩やかに傾斜する場所を切り盛りし、平坦な場所をつくったのちに構築されていました。風張遺跡は過去に調査されたことがなく台地上の土地利用は不明でしたが、今回の調査で中世(15世紀~16世紀主体)に集落が展開していることと、その集落は神之峯城跡の中腹につくられた礎石建物跡(お堂)と同じ時期であることがわかりました。風張遺跡は、知久氏と深い関わりをもつ集落であったと考えられます。
【遺跡遠景】
写真中央の台地に風張遺跡が立地します。台地の北側(写真左)に鬼釜(おにがま)遺跡が接しています。
【調査区の全景】
写真中央やや下が調査区です。台地上は東(写真上)から西(写真下)に向かって緩やかに傾斜しています。掘立柱建物跡は、その傾斜を切り盛りした平坦地に構築されています。
-風張遺跡、調査終了-
4月中旬から始まった風張遺跡の調査は、8月10日で終了になりました。2区と3区は、現地説明会とラジコンヘリによる空中写真撮影、重機による深掘りトレンチを掘りました。4区では、中世の井戸と思われる穴や竪穴建物跡、掘立柱建物跡、溝跡(水路)がみつかりました。
【かわらけの精査風景】
2区でみつかった中世の掘立柱建物跡の柱穴から、15~16世紀に焼かれたかわらけがほぼ完形で出土しました。柱の下に埋めたものと思われます。かわらけに溜まっている水は、地下からわき出している水です。風張遺跡は地下水位が高く、特に雨が降った翌日は、穴が水没してしまいます。
【ラジコンへりによる空中写真撮影風景】
7月19日、 2区と3区の空中写真を撮影しました。写真右下に見える穴は、掘立柱建物跡の柱穴です。
【重機による深掘りトレンチ掘削風景】
7月30日、遺構調査が終了した2区では、重機による深掘りトレンチを掘削しました。調査した面より下層に、遺構・遺物は確認されませんでした。
【中世の竪穴建物跡の調査風景】
一辺約2m(下端)の長方形の穴です。中には多量の礫が投げ込まれていました。埋土からは15~16世紀の陶磁器が出土しました。
【板状の木材の精査風景】
4区の調査では、一辺約50cmの正方形の穴が見つかりました。中からは井戸枠の可能性のある板状の木材が出土しました。穴の時期は、出土遺物から中世と考えられます。
-近世の掘立柱建物跡や土坑が見つかりました-
風張遺跡は、細田川に面した丘陵上に立地します。現在、近世の掘立柱建物跡などを調査しています。調査地は、東から西側に緩やかに傾斜する地形で、切り土・盛土で平坦な区画を造り、その区画内に建物を建てていることが明らかとなりました。
【掘立柱建物跡の写真撮影のようす】
ローリングタワーを使って掘立柱建物跡(ST01)の全景写真を撮影しています。
【掘立柱建物跡(ST01)の全景写真】
3間×5間の掘立柱建物跡です。時期は近世です。柱穴がある場所に作業員さんに立ってもらいました。建物跡の大きさがわかるでしょうか。この建物跡は、南・西・東側の3方向に庇(ひさし)があります。建物の規模が大きいことから、母屋と推定されます。
【掘立柱建物跡(ST01)の柱穴】
柱穴のなかには、底に扁平(へんぺい)な石が設置されているものがありました。柱を固定するために柱の下に置いたもの(地下式礎石)と推定されます。
【掘立柱建物跡(ST02)の全景】
ST01の東側に位置する1間×3間の掘立柱建物跡です。時期は近世と推定されます。この建物はST01より規模が小さいので、ST01に付属する建物跡と推定されます。
【土層断面図の記録のようす】
掘立柱建物跡が分布する場所に残した土層観察用ベルトの断面では、緩やかに傾斜する調査区内を切り盛りし、平坦地をつくった様子が確認されました。写真は土層断面を図面に記録している様子です。
天竜川以東を支配した知久氏の本城(神之峯城跡)の眼下に広がる遺跡
風張遺跡は天竜川以東の上久堅地区にあり、細田川右岸の丘陵上に立地します。昨年度、確認調査(トレンチ調査)が行われ、平安時代と推定される竪穴住居跡、中世以降と推定される掘立柱建物跡の柱穴と溝跡が見つかっています。4月から本調査を開始しました。
室町~戦国時代、天竜川以東を支配した在地国人、知久氏の本城(神之峯城跡)の眼下に位置します。遺跡内には「馬場」の小字も残っていることから、地元にはこの場所が神之峯城の馬場であるとの伝承があり、今回の調査で、神之峯城跡と関連する遺構・遺物が発見されることが予想されます。
【発掘開始式】
4月16日(月)から今年度の発掘調査を開始しました。まだ肌寒く、吹く風も冷たい気候。桜の花はようやく咲く気配が見られる状況でした。
【重機によるトレンチ掘削】
昨年度はまだ竹薮が残っており、トレンチを掘削できなかった場所がありました。今年度は重機で、その場所にトレンチを掘削し、遺構・遺物の有無を確認することから開始しました。
【重機による表土剥ぎ】
昨年度の確認調査(トレンチ調査)で、遺構が確認された場所の表土を重機で剥いでいます。
【トレンチのなかでの作業】
重機で掘削したトレンチの壁削りと、トレンチの底面の精査をしています。土はかなり粘性が強く、さらに多く水分を含んでいるため、長ぐつを履いて作業しています。丘陵上ですが、低地での水田跡の調査と似ています。
【遺構検出の風景】
両刃鎌を使い遺構検出しています。