書名:飯田市 鬼釜遺跡 風張遺跡 神之峯城跡
副書名:一般国道474号飯喬道路埋蔵文化財発掘調査報告書6
シリーズ番号:長野県埋蔵文化財センター102
刊行:2016年3月
―山間地の集落と墳墓―
伊那谷の天竜川左岸(竜東)にある遺跡で、河川に沿って延びる狭小な自然堤防に縄文時代中期、弥生時代、平安時代、中世以降の集落が形成されています。縄文時代中期では、土器敷炉(どきじきろ)を伴う竪穴(たてあな)建物跡やその近くに廃棄されたと考えられる土器が数多く出土しました。また、6世紀の鬼釜古墳からは周溝内で鉄製の馬具が埋納された土坑がみつかり、馬の殉葬墓と考えられます。5世紀に天竜川右岸(竜西)で展開した馬匹(ばひき)文化が、6世紀には周辺地域に拡大していることがわかってきました。
【遺跡遠景】
中央を流れる玉川の左岸(自然堤防)に縄文時代~中世以降の集落と鬼釜古墳は立地します。鬼釜遺跡の南(写真左)に風張(かざはり)遺跡と神之峯(かんのみね)城跡が立地し、3遺跡は近接して分布しています。
【縄文中期後半の土器】
竪穴建物跡の炉に敷かれていた土器と、廃棄されたと考えられる土器です。
【馬の殉葬墓から出土した鉄製の馬具】
保存処理が終わった3点の馬具です。
写真上は雲珠(うず)=馬の尻につけた金具、写真中・下は鞖金具(しおでかなぐ)=鞍(くら)の前輪・後輪(しずわ)につけた金具です。
今回出土した雲珠はリング状で、このような雲珠は飯田市宮垣外(みやがいと)遺跡からも出土しています。
【鬼釜古墳出土の副葬品】
近代以降の造成によって墳丘は残っていませんでしたが、この造成土や石室の石を抜き取るために掘ったと考えられる穴から副葬品が出土しました。
写真左上の2点が耳輪で、左上隅の遺物には金メッキが施されていました。写真中は管玉(くだたま)、写真下はガラス小玉です。
飯喬道路建設に伴う発掘調査で出土した鬼釜遺跡・風張遺跡・神之峯城跡の遺構・遺物の詳しい内容をまとめる作業が進んでいます。今年度末の報告書刊行を目指し、スタッフが様々な作業を分担して進めています。
【遺構のトレース】
遺構の平面図や断面図はパソコンを使ったデジタルトレースで仕上げます。遺構の重なりや土の堆積の状況をていねいに描き込んでいきます。
【土器の計量】
遺構のどの地点からどんな遺物がどのくらいの量出土したのかをまとめるため、観察の後、重量を測定しています。鬼釜古墳の周溝では、北側に6世紀前半の土器が、南側に6世紀末~7世紀の土器がまとまって出土しているようです。
【縄文土器のトレース】
鬼釜遺跡では縄文時代の住居跡や土器捨て場がみつかり、中期後葉の土器が多数出土しました。整理作業のなかで、下伊那地域特有の唐草文系土器(下伊那タイプ)と、東海地方に分布する中富(なかとみ)式土器の影響を受けたと考えられる土器とが、最も多く出土していたことがわかりました。このことは天竜川西岸にある同時期の遺跡と共通します。
現在、土器の実測図をもとに、文様などの表現を工夫しながらていねいにトレース中です。
鬼釜遺跡では、平安時代の竪穴住居跡、中世と思われる竪穴建物跡と、建物の柱穴が見つかっています。
竪穴住居跡などがある自然堤防に接する南側の低地には、縄文時代の土器と石器が多数出土しています。
また、調査区の北側にある鬼釜古墳の周溝(しゅうこう)の調査で、古墳時代の須恵器(すえき)が出土しました。
【縄文時代の遺物が多数出土】
自然堤防に接する低地(自然流路跡)から縄文時代中期の土器と石器が出土しました。
【竪穴住居跡のカマド】
平安時代の竪穴住居跡の南東隅に設置されていたカマドです。左右の石はカマドの袖石(そでいし)で、写真中央の赤色部分は、カマドの底が火で焼けたことによって生じたものです。
【中世?の竪穴建物跡】
一辺2.5mの方形の竪穴建物跡(SB04)です。壁際に約20cm間隔で柱穴(はしらあな)がめぐり、中央西側には焼土(しょうど)があります。出土遺物がないため、現時点で時期は不明ですが、平安時代の竪穴住居跡と重複しており、それよりも新しいことが分かっています。規模や構造からすると中世の可能性があります。
【建物跡の板壁の痕跡?】
SB04の壁際の写真。壁と壁柱穴の間で厚さ約5mmの粘土質の土が発見されました。壁際に板材が設置されていたことを示すものと思われます
【掘立柱建物跡(ほったてばしらたてものあと)】
2間×2間の総柱のST02と名付けた掘立柱建物跡です。白い線で結んであるのが柱穴のです。写真中央の土が黒ずんでいる所は平安時代の竪穴住居跡で、ST02は平安時代の竪穴住居跡が廃絶した後につくられていました。
【古墳時代の須恵器出土】
鬼釜古墳の周溝を覆う表土から6世紀の須恵器(高坏の蓋か?)が出土しました。
発掘調査が終了しました。
トレンチという溝を何本も掘って、遺跡の時代や内容の確認調査を行いました。